突然ですが、「スピーチロック」をご存知でしょうか?
言葉で相手を拘束する行為です。
介護・医療の現場では、身体拘束廃止に向けた取り組みが進んでいますが…
スピーチロックは認知が進まず、あまり問題視されていない現状です。
介護士として見てきた現場の事例を交え、対策を言い換え等の対策をご紹介します。
身体拘束廃止の一環として、お役立ていただければ幸いです。
スピーチロックとは?
スピーチロック(speech lock)とは、言葉による拘束を意味します。
具体的には「ちょっと待って!」「~しないで!」など、相手の行動を制限する言葉を指します。
言ってしまえば、言葉による虐待です。
身体拘束は、相手の身を危険から守る為に行われる事もありますが、安易に行ってはいけません。
言葉による拘束も「身体拘束」であり、他と同じく、行動を制限し苦痛を与える行為です。
うっかり使いがちな言葉ですので、使用しない様注意しましょう。
スピーチロックとなる事例・例文
スピーチロックの具体的な事例をご紹介します。
どんな言葉が拘束となるのか、確認しましょう。
- 「動かないで!(そこにいて!)」
- 「座ってて!」
- 「寝てて!」
- 「ちょっと待ってて!」
- 「~はダメ(やめて)!」
既述の通り、「ダメ」「動くな」など、相手の行動を制限する言葉を指します。
付け加えると、相手の意思を無視して命令する言葉が該当します。
いずれも介護施設でよく使われてしまう言葉達です。
つい口にしてしまう日常的な言い方ですよね。
現実として、これらは今現在も介護現場で多く聞かれます。
介護現場での事例集
私も介護士ですので、よく分かるのですが…
スピーチロックが出てしまう場面として、下記の様なものがあります。
- 他の方の介助中、転倒リスクのある方が動き出した
- 忙しい夜勤中、何度も起きだす方がいる
- トイレ介助中にコールで呼ばれた
利用者と職員の数は、1対1ではありません。
その為、どうしても利用者に「待ってもらう」場面が出てきます。
職員のいない中、事故を防ぐ為に悪意なく使ってしまう事例が多いでしょう。
施設の高齢者は認知症の方も多く、事情や危険を理解できる方は少ないです。
耳の遠い方も多いため、シンプルな「ちょっと待って!」は特に使いがち。
つい、語気が荒くなる事も多いでしょう。
スピーチロックは身体拘束として認知されてない?
介護や医療現場は、全面的に身体拘束廃止の流れにあります。
厚生労働省も「身体拘束ゼロへの手引き」を取りまとめ、身体拘束は「緊急で身体の危険があって他の代替手段がない場合に限り、一時的にしかしてはならない」としました。
しかし、いまいちスピーチロックという概念は浸透していません。
介護現場では事例に挙げた様な言葉が未だ散見されます。
言葉の拘束は分かりにくい
さて、そもそも身体拘束の種類にはどんなモノがあるでしょうか。
介護現場では、身体拘束に該当する行為として「スリーロック」という言葉があります。
- フィジカルロック
(ミトンやつなぎ等、直接身体を拘束する行為) - ドラッグロック
(過剰な向精神薬等で、身体機能を奪う行為) - スピーチロック
(言葉の拘束)
危険を防ぐ為に拘束する点では、全て共通していますね。
このうち「フィジカル」「ドラッグ」と呼ばれる行為は、介護現場でも強く意識され、基本的には全面廃止となってます。
「身体拘束ゼロへの手引き」でも、上記2つは身体拘束の具体例として記載されてます。
言葉による拘束は、他2つに比べると特徴が分かりにくいです。
見た目にも変化は無く、介護者が拘束の自覚を持つ事が出来ません。
スピーチロックの対策
ここからは、スピーチロックを防ぐ為の対策方法を紹介します。
介護現場は、職員不足による労働環境の悪さが問題視されますが…
「職員を増やす」という対策は、一般職員にとっては現実的ではありません。
言葉の「言い換え」「置き換え」
スピーチロック対策としてよく推奨されるのが、言葉の言い換えです。
その際は、「相手に選択権を委ねる(聞く)」、代替案を用意する等の言い回しが有効です。
介護でよく使ってしまう言葉を中心に、言い換え表を用意したのでご参考下さい。
スピーチロックとなる言葉 | 言い換え例 |
---|---|
待ってて! ここにいて! |
|
ダメ! やめて! |
|
動かないで! |
|
家には帰れません! |
|
寝てて! 部屋にいて! |
|
食べて! 飲んで! |
|
気遣いを交え、聞いてて不快にならない話し方をするという事ですね。
まずは相手の意思を尋ね、そのうえでこちらの事情も伝えましょう。
第一声で「大丈夫?」「どうしたの?」などの言葉から入ると、優しい印象になります。
下手な約束は避けつつも、気落ちせず納得できる言葉・代替案を皆で探しましょう。
個人を見て、声掛けのバリエーションを増やす
個人や状況により、有効な声掛け方法も違います。
相手が言葉を受け入れるかは別問題として考えねばなりません。
普段からの信頼関係がモノを言う事もあるでしょう。
「お医者に言われましたよ」など、相手が納得できる一言も添えると、なお良いですね。
本や他職員を見て、声掛けのバリエーションを増やしておくと便利ですよ。
職員同士で良い声掛け方法について相談し、情報共有していきましょう。
ケアや業務方法を改善する
職員に余裕が無く、相手を待たせてしまう。
危険物があるなど…、スピーチロックが発生し得る状況を作らない事も大切です。
利用者様を日々観察していると、その方の思考やクセなどが見えてきます。
業務の中で余裕が無い時間帯も分かってきます。
それらを見て、介助に入るタイミング等を工夫すれば、上手く対応できる場合もあります。
少し例をご紹介します。
- 転倒リスクの高い方から就寝介助する
- 見守りの目が少なくなる前に、動く方のトイレ誘導をしてみる
- 触れては困るような危険物を置かない
「動かれたら困る状況をなるべく作らない」という事ですね。
前もってその可能性を除く動きも意識すると良いですよ。
会議の場などでが積極的に意見を出し合い、ケアや業務の改善に努めましょう。
これらの努力は、介護事故を減らす事にも繋がりますよ。
ケアの質も向上し、職員にとっても働きやすい環境になるはずです。
利用者のケア方法は、24時間シートを作成し、利用者把握や情報共有に役立ててる施設もあります。
担当の方について書き出してみると、業務改善のヒントが見えてくるかもしれません。
介護者のマインド改善も必要
スピーチロックは意識1つで解決出来る拘束ですが、安易にできてしまう側面もあります。
…それに、該当する言葉を言わなければ良いというものではありません。
身体拘束を無くすには、そもそも拘束に繋がる思考を持たない事。
利用者の苦痛・不安を取り除く意識づくりが重要になります。
たとえ拘束にあたらずとも、相手に不快感・苦痛を与える言動は避けるべきです。
その為には、「職員の意識改善」と「気付きを増やす観察力」が必要だと思ってます。
思いやりの精神が充分育まれた時、スピーチロックも自然と無くなっている事でしょう。
利用者の苦痛や不安を考えること
スピーチロックは、言葉の拘束で相手に苦痛を与える行為です。
言葉の虐待とも述べました。
言葉の置き換え、了承を得るのが有効と言いましたが…
「既にお尻の痛みが限界にある」方がいたとして…、
そのまま待つ事を了承したとしても、その状況はいかがなものでしょうか?
脇道にそれますが、言葉の拘束が必要ない方の苦痛も考えてみましょう。
「寝たきりの人」や「意思表示の出来ない方」も、介護現場には多くいらっしゃいます。
- 車イスに長時間座らされる
- 食事を無理やり食べさせられる
- 自立度が高く、気にかけてもらえない
これらは時に拘束と同じくらい苦痛です。
「放置」や「やりすぎの介護」も、虐待となりかねません。
「やりすぎの介護(延命介護)」については、下記記事でも述べています。
拘束廃止には苦痛を除く意識が不可欠
スピーチロックが現場から排除されようと、相手の立場や気持ちに寄り添うマインドが浸透されなければ、意味が無いと思ってます。
しかしそれをいかなる時も実践するのは、なかなか難しいモノ。
仕事の焦りや不安、ストレス等、沢山の障害があります。
相手を尊重し、安心や安全を与える言動が自然に出来るようになった時、初めて「介護のプロ」と言えるのかもしれませんね。
まとめ
今回は「スピーチロック」について解説しました。
いずれも日常会話でも使われる頻度が高い言葉です。
正直言うと、私もうっかり口にしてしまう事があります。
記事中でも述べた通り、拘束しない言葉であればOKではありません。
強い口調や大声等、相手を不快にしてしまう要素は沢山あります。
言葉は、それだけで人の心も身体も動かせる便利なモノです。
使い方を誤らないよう、受け手に配慮した言葉かけを行っていきましょう。
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