介護士やご家族の悩みである「介護拒否」。
上手く解決するには、どんな対応を取るべきでしょうか。
拒否のある場面やその理由は、一人ひとり違います。
本人も「嫌だ、苦しい」という思いを抱えてる事も、忘れてはなりません。
その傾向や可能性を探り、対策方法の参考になれば幸いです。
介護拒否の原因とは?
介護拒否の原因は、個人や場面により異なります。
介護拒否がおきる場面に多いのが、オムツ交換や入浴、服薬などでしょうか。
特定の職員への拒否、暴言・暴力など、その対象や拒否方法も様々。
デイサービスに行きたくない等の拒否もありますよね。
原因が違えば、取るべき対応・対策も違います。
適切な対応策を知るためにも、まずはその理由を考えてみます。
多くの高齢者と関わってきましたが、下記の様な理由があるようです。
- プライドや介護への抵抗心
- 体調や気分
- 認知症等による意思疎通の難しさ
- 特定職員への苦手意識
1つずつ見ていきましょう。
プライドや介護抵抗からの拒否
自分が介護を受けるという違和感から、拒否が出る事もあります。
「自分で出来る、人の世話にはなりたくない」という気持ちです。
「自分が情けない」「現実を受け入れられない」、という感情を併せ持つ方もいます。
介護慣れしていない方も多く、介護をされる事への抵抗心が出てしまいます。
また高齢者には、トイレや入浴などに自分なりの手順を持ってる方も多くいます。
- 入浴の際は、まず浴槽につかってから体を洗う
- ズボンを上げ下ろしは、ベッドに戻ってから行いたい
- 車椅子のブレーキをかけると、動かしにくいから嫌だ
職員には危険や非効率的に見えても、本人にはそれがいつものやり方だったりします。
そうした時に職員が介入すると、かえって相手を怒らせてしまいます。
特定のタイミングで介護拒否があるパターンであり、これも介入しにくいケースですね。
帰宅願望による介護拒否
それに高齢者の多くは、自分の家で生活したいという思いを抱えています。
利用者様から、「家に帰る」という言葉を聞いたことはないでしょうか?
施設の利用に納得してもらえず、お悩みのご家族もいらっしゃると思います。
「介護施設やデイサービスは嫌だ」、そんな気持ちもある事を知っておきましょう。
体調や気分による拒否
認知症の方をはじめ、自分の不調や気持ちを上手く言葉にできない方もいます。
調子が悪い時は起きたくないし、お腹が一杯なら食事は食べたくありません。
眠い時は動くのが億劫だし、オムツ交換や入浴で服を脱ぐのは寒いです。
そんな時に「嫌だ!」という気持ちが強く出てしまうのです。
介助に必死になってしまうと、それが見えなくなってしまう事も。
今までの経験から、特に拒否が強くなる時が下記3つ。
- 痛い
- 寒い
- 眠い
なかでも特に拒否が強くなるのが、「寒い時」と「痛い時」。
介助場面で言うと、オムツ交換や入浴、傷の処置時など。
相手の気持ちをいかに察し、上手く苦手意識を克服できる環境を作っていきましょう。
認知症による介護拒否
介護施設は、認知症や耳が遠いの方も多く利用されます。
上手く声掛けしたつもりでも、相手に内容が伝わっていない事も…。
「こわい」「不安」という感情も、拒否を生む原因です。
「突然何をするの!?」という恐怖や不安からの介護拒否もあります。
認知症や精神疾病等で、介護を受ける精神状態でない事もあります。
今どこにいるか分からない、物盗られ妄想など…、
ご本人からしたら、食事やトイレどころではない事も。
特に認知症の方は、自分の事を理解したり伝える事が難しいです。
程度により、薬の変更等が必要になる事もあります。
失禁による不穏も
経験では認知症の方が不穏な時、失禁がある事が多いです。
落ち着かなくなってきたと思ったら、トイレに誘ってみるのも有効かもしれません。
- 家に帰らなくちゃ
- お金は大丈夫か?
- 良く分からないが、怒ってたり落ち着かない
一見トイレと関係なさそうな言動をされてる時でも、失禁で落ち着かないケースもあります。
認知症の方の不穏に多い原因ですので、言葉にならない何かを探ってみるのも有効ですね。
特定職員への介護拒否
場面を問わず、特定の職員が介護拒否を受ける事もあります。
拒否までいかずとも、「なぜか強い口調で怒られる」というパターンもあります。
職員にとっては、精神的ダメージが強い拒否です。
「自分に非があったのだろうか?」と悩んでしまう方も少なくありません。
多かれ少なかれ、皆経験します。
原因を挙げるとすれば、下記でしょうか。
- 元々介護拒否が多い
- 理不尽に悪役にされてしまっている
- 相手の嫌がる言動をしてしまっている
介護の場では、利用者にとっての悪役が必要な場面も出てきます。
例えば、家族やケアマネなどの愚痴を聞かされた事はないでしょうか?
周囲の人間からすれば理不尽な話ですが、そうした役割を必要とする方もいます。
なにかの拍子で、介護職員が責められ役となる事もあります。
介護拒否が起こるタイミングで介入している事も
また職員に原因がある場合では、相手の嫌がる言動をしてしまってる事もあります。
- 相手の嫌がるタイミングで介入している
- 不快や不安を与える介助、声掛けをしている
- 人間同士の相性
意外とあるのが、拒否反応がでるタイミングや方法で介入しているケース。
または介助方法や声掛けなどで、相手に苦手意識を与えている場合もあります。
特に認知症のある方は、同じ行動に対し毎回似た反応があります。
「この方法だと相手が嫌がるから、こうしてみよう」と、色々試してみましょう。
いずれにせよ特定職員への拒否は、解決に時間がかかります。
無理して対策せず、職員を変えるなどして対応しましょう。
距離を置き関りを減らした方が、介護者・要介護者共にストレスが少なくなります。
忘れた頃に拒否が無くなる事も
介護拒否への対応と対策
改めて介護拒否の対応や解決方法を考えてみましょう。
対策としては、下記の様な対応が出来ます
- 声掛けタイミング、環境を工夫する
- 利用者との距離を置く
- 代替方法や妥協案を考える
- 拒否を受け入れる
気分や意思疎通の問題であれば、声掛けや環境の工夫で解決できる事もあります。
本人の不快感を減らす為、違う方法をとってみるのも有効。
但し、対応を焦ってはいけません。
覚えておいて欲しいのは、「嫌なモノは嫌」だという事。
拒否への対応策は、それを緩和したりごまかす方法です。
根本的な解決は、非常に難しいのです。
特に「介護への抵抗心」や「特定職員への拒否」は、解決に時間を必要とします。
無理に解決しようとせず、拒否を受け入れる事も大切です。
諦める、離れてみる、というのも正解の1つです。
「声掛け方法」「環境」の工夫
認知症等で声掛けの理解が難しい場合、簡単で短い内容に言い換えます。
1つの動作の度に「○○しますよ」と、声かけがあると良いですね。
「ここを持って」など、簡単な指示を出す事でスムーズに介助が出来ます。
環境や行為に原因がある場合、それが終わると落ち着かれる方も多いです。
これは入浴に多いパターンで、あれだけ嫌がったのに「さっぱりしたありがとう」なんて事も。
”穏やかに落ち着いた声で”、”大袈裟じゃなく自然に”が望ましいですね。
否定せず納得できる言葉を探そう
声掛け時は、相手を強く否定したり、無理強いしてはいけません。
相手を逆上させ、怒りや拒否を生みます。
「今は大丈夫」という返答にも、裏には「嫌だ」「面倒」という気持ちも隠れてます。
タイミングを見て声掛けを繰り返したり、その人に合った言葉を探してみましょう。
穏やかな方でも、無理強いすると、大抵の場合「怒り」が強く出ます。
そうするしかない場面もありますが、それは最後の手段とし「諦める」選択も知っておきましょう。
「薬塗らせて」なんかは、よく使いますね。
認知症の方への声掛けは、下記書籍が参考になります。
介護拒否についても書かれており、参考になるかと。
ジャスチャーも効果的
意思の疎通には、ジェスチャーも効果的です。
先の通り、高齢者には意外とこちらの声は伝わってません。
経験上、ジェスチャーを交えると指示が伝わりやすくなります。
OKやNGサイン、行く場所や持つ場所を示したり…
介助もスムーズになるので、試してみて下さいね。
耳が聞こえない方には、ホワイトボード等での筆談も有効です。
異動や交代で利用者と離れる
特定職員への拒否は解決が難しく、仕事にも支障が出ます。
他に職員がいれば、対応を変わってもらいましょう。
ただ毎回仕事を変わってもらうのも、精神的に辛いです。
理解の無い職員がいると、人間関係のトラブルにも発生しかねません。
1人で抱え込まず、周囲に相談して下さい。
一次的な拒否であれば、時間をおいて様子見しましょう。
代替案や妥協案を考える
オムツ交換や入浴など、どうしても必要になるケアもあります。
暴言や手が出る等、職員・利用者共にケガをする危険があります。
そんな時は別の方法を取ってみましょう。
- 入浴拒否が強いので、シャワーや更衣・清拭を行う
- オムツ交換を嫌がるので、時間や回数を減らす
- 機嫌や様子をみて、声掛けのタイミングを変更する
本人の負担を減らし、無理なく行えるところから対応を始めると良いですね。
その判断はなるべく個人ではせず、他職員も交え全体で決めていきましょう。
拒否を受け入れた業務作りをする
介護拒否を仕方ない事として、無理に解決しないのも対応の1つ。
「代替案」や「距離を置く」のも、そういった姿勢よりの対応ですね。
それで良いと受け入れてあげるのも、対策の1つです。
受け入れるといっても、内容によりそうもいかなかったり、判断が難しい事もあります。
そのままにしてしまうと、仕事をしてない等、評価を落とす事も考えられます。
嫌なんだと受け入れたうえで、「ならどうするか」を話し合われる必要があります。
ケアマネなどの他職種、職員も交え、対応を考えていきましょう。
話し合いや会議などを通し、拒否を踏まえた業務ルールを作っていきましょう。
介護拒否の事例集
私も介護職員として、色々と介護拒否の場面を見てきました。
その経験から、いくつか内容をご紹介します。
介護拒否の事例集として、何かのお役に立てれば幸いです。
信頼を得て拒否を無くす
サービス付き高齢者向け住宅で、訪問介護員として勤務していた時のこと。
気難しくて有名な女性利用者様がいました。
認知症が少しあるもしっかりされており、自分の事は大抵できる方です。
介護予防やボケ防止が気になり、漢字や計算ドリルでの脳トレが日課です。
そんな彼女ですが…、誰かれ構わずとにかくよく怒る。
拒否はありませんが、常に高圧的。
利用者・職員問わず、相手を下に見てしまい、粗が気になってしまいます。
※返す言葉もないですが(笑)
そんな彼女が唯一尊敬の眼差しを向けるのが、デイサービスのリーダー。
介護予防や脳トレを教えてくれる、「先生」です。
後に私も「この言葉の意味を知りたい」と聞かれた事がありまして…
スマホで調べて解説してから、先生の仲間入りができた様です。
ちょっとしたミスがあっても、「ええよ、ええよ」と許してくれるように。
このように悩みや不安を解決し、信頼を得ていく方法もあります。
施設利用者は生活の悩みが絶えないので、普段から話を聞いてあげると信頼関係構築になります。
オムツ交換の拒否
オムツ交換の拒否も、介護士なら誰もが経験あるんじゃないでしょうか?
例えば、認知症が強く、言葉での意思疎通が困難な方。
どんなに説明しても不安がぬぐえず、「何すんだ!」と手が出てしまいます。
自分で入る時は、好きな趣味の話をしてその隙に…、という感じですね
また最近だと「眠りスキャン」など、ベッド上での覚醒状況が分かる介護機器もあります。
拒否の強い方には、これを活用し覚醒時にオムツ交換に入る現場もありましたね。
睡眠状況なども分かるし、本人の理解に役立つ機会ですね。
徐々に覚醒して、拒否が無くなる事も。
帰宅願望による介護拒否
家族目線の話になりますが、家族が介護施設が嫌で帰ってきた事があります。
元々周囲とのコミュニケーションが苦手というのもありまして…、
「帰りたい」と訴えが強すぎて、施設側で対応できなかったそうです。
その後デイサービスも試しましたが、馴染めませんでした。
※ちなみに本人はだいぶ動けるようになり、自宅で元気にしてます
上記の記事でも、同様の話を紹介していますが…
介護拒否を原因に、施設やサービスを利用できなくなる事もあります。
※職員への申し訳なさで、面会に行きにくいご家族もいます
介助と同じく、本人が納得・妥協できる方法を選び、少しずつ慣れていくしかありません。
最後に
今回は、介護拒否の原因と対応について、介護士目線でお話ししました。
拒否の解決や利用者様の理解には、時間が必要です。
焦りや無理強いは、かえって悪影響を及ぼすので厳禁。
まずは問題を共有する事からはじめ、上手くいった例や対応方法を話し合いましょう。
また認知症の有無でも、取るべき対応が異なるかと思います。
言葉によるごまかしも可能ですが、相手や場面を見て判断して下さい。
認知症が強い方でも、職員の顔は結構覚えてくれてます。
ゆっくりと介護や職員に慣れてもらい、信頼を得ていきましょう。
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