介護現場では、よく「ヒヤリハット」という報告書が作成されます。
これは介護事故の防止などを目的に書かれる書類です。
今回は「ヒヤリハットとは何か?」を詳しく解説します。
事例も交えつつ、介護士目線でお話ししていきます。
ヒヤリハットとは
介護現場におけるヒヤリハットとは、文字通り「ヒヤッとした」経験を共有する為の書類です。
具体的には、「介護事故には至らなかったけど、危なかった」という経験ですね。
これらの情報を共有し、ケアの質向上や事故防止の為に書かれます。
ヒヤリハットの目的
介護現場でのヒヤリハットは、下記の様な目的で作成されます。
ヒヤリハットの作成目的
- 介護事故の防止
- ケアの質向上や業務改善
- 事例や危険意識を全体で共有する
よく言われる「ハインリッヒの法則」では、『一件の重大なトラブル・災害の裏には、29件の軽微なミス、そして300件のヒヤリ・ハットがある』とされます。
介護現場では、主に「介護事故(重大なトラブル)」防止の為に作成されます。
ヒヤリハットの作成過程では、その原因や対策まで考える事になります。
それらを突き止めると、利用者様が抱える希望や問題も浮かび上がってきます。
そこで得た情報をケア方法へ反映させる事により、より良いケアや業務改善が可能となります。
どんな場面がヒヤリハット?
ヒヤリハットとなるのは、介護事故の可能性があった時です。
「事故かヒヤリか?」と迷う場面は意外にあるので、確認してみましょう。
ヒヤリハットとなる場面
まずは「ヒヤリハットとなる事例」から確認してみます。
ヒヤリハットとなる場面・事例
- Aさんがベッドから落ちそうだった
- Aさんの薬介助をしようとしたところ、Bさんの薬袋を持っていた事に気づく
- 床が濡れていて、滑りやすくなっていた
いずれも介護事故の可能性が考えられる場面ですね。
ヒヤリハットは、利用者様の危険な動きだけではありません。
「ヒューマンエラー」や「環境」に関する事についても書かれます。
こうした情報を共有し、利用者様のケア方法や環境、業務の改善をしていきます。
「清掃チェック」の必要性等が検討できますね。
ヒヤリハットとならない場面
続いて、「ヒヤリではない場面」も確認します。
ヒヤリハットとならない場面
- 利用者様が転倒したが、ケガは無かった
- 利用者様の声が大きくドキッとした
注意として、「転倒したがケガは無い」という場合は、事故扱いとなります。
事故報告書を作成し、報告や対策の検討が必要です。
また事故の危険も無く、単に職員がヒヤッとしただけでは、ヒヤリハットにはなりません。
しかし利用者様の記録として重要な事もあるので、必要に応じて記録し共有する様にしましょう。
ヒヤリハットは誰が書く?
ヒヤリハットは、事業所の職員であれば誰が書いても構いません。
現実的には、利用者様との関りが多い「介護士」「看護師」により作成される事がほとんどですね。
特に介護士は最も作成機会が多いので、よく理解しておきましょう。
その為に普段をよく知る介護職員が、他職員からの報告を受け作成する事も多くあります。
ヒヤリハットの書き方・例文
ここからはヒヤリハットの具体的な書き方をご説明します。
基本的には、職場で書式が用意されている事が多いので、それに従えば良いです。
より良い報告書にするには、下記の事を意識しましょう。
ヒヤリハットを書く時のポイント
- 5W1Hを意識する
- 必要情報を簡潔に伝える
- 主観は含めず、事実をありのまま伝える
5W1Hとは、「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうした」という情報。
書式を作る際は、記入側がこれらを書けるように作成すると良いですね。
具体的な書き方は、順次説明していきます。
ヒヤリハットの書式
ヒヤリハットの書式は、事故報告書の簡易版の様な形となります。
報告件数を増やす意味で、必要事項を絞り「書きやすさ重視」で作成する方が望ましいです。
ヒヤリハットの書式・記入項目例
- 発生(報告)日時と場所
- 対象の利用者様
- 内容(経緯やその理由)
- 想定される事故
- 今後の対策
大体、こんな感じのポイントが入っていれば良いでしょう。
気付いた時にすぐに書きやすい様、印刷して用意される事が多いですね。
ヒヤリハットの具体的な書き方【事例・例文】
それでは、実際にヒヤリハットの記入例を紹介します。
下記はオリジナルの事例で例文を作成をしたものです。
ヒヤリハット報告書 | |
---|---|
発生日時 | 令和2年 9月7日(月)10:00頃 |
対象利用者様 | ○○様 |
報告者 | □□ |
発生場所 | ☐居室 ☑共有フロア(自席) ☐トイレ ☐浴室 ☐その他( ) |
内容 | フロア自席にて10時のお茶を召し上がっている最中、座り直しをされる。 しかし車椅子のブレーキがかかっておらず、着地の際に職員が車椅子を支えに入る。 |
予想事故分類 | ☑転倒・転落 ☐誤薬 ☐自傷等 … |
考えられる原因 | ・車イスのブレーキかけ忘れ ・ご本人は「ブレーキレバーに手が届きにくく、上手くいかない」と話される |
今後の対策 | ・職員によるブレーキ声掛け、確認をする ・ブレーキレバーの延長棒を使用 |
上記は、転倒の可能性があるヒヤリハットです。
こうして見ると事故報告書と似てますね。
実際には、もうちょっと簡単な内容でも良いと思います。
ヒヤリハットが思いつかない時は?
ヒヤリを提出する必要があるが、上手く内容が思いつかない。
こんな時のアドバイスを少し紹介します。
もし「ネタがない」という事であれば、自分のミスも含めて考えてみてはどうでしょう。
例えば…
- 車椅子のブレーキをかけ忘れそうになった
- 服薬介助で落薬しそうになった
- 移乗で危険な場面があった
利用者様の危険だけでなく、自分の仕事全体から考えてみると良いですよ。
「ミスしそうになった」という報告でも、「確かにココは危ないよね」と、建設的な報告に繋がる事もあります。
また書いていて困るのは、「原因」と「対策」になると思います。
経験から言うと、「環境」や「利用者様の能力・感情」、「職員の動き方」等にヒントが多いですね。
上手く思いつかない時は、周囲の職員と相談しましょう。
「こんな危険があった」「皆で話し合いたい」として、報告だけはあげておきましょう。
「必要な情報」を選ぶ能力も養っておく
「必要な情報を分かりやすく」は、ヒヤリハットだけではありません。
介護記録や事故報告など、仕事での文章作成全般に言える事です。
加え介護では、利用者様への観察力や理解も必要になります。
必要情報を判別し、よい記録・報告書とするには、いずれも必須となる能力です。
ちょっと「自信がない」という方は、この機会に学習してみてはいかがでしょう。
下記の様な書籍も参考になると思いますよ。
記録が上手く書けるようになれば、作業効率もアップします。
特に記録業務は残業要因になりがちなので、上達を図っておきたいですね。
ヒヤリハットで介護事故を防ぐには?
ヒヤリハットの目的は、介護事故を防止する事です。
報告書を使い介護事故を防ぐには、どのように活用を進めるべきでしょうか?
ヒヤリハットを活用するには、下記の様な事が大切ですね。
ヒヤリハット活用のポイント
- 報告書の確認・共有の場を作る
- 危険予知の訓練をする
- 「報告・対策」の進め方に関するルール確認
- 事故の危険性・報告件数を注視する
順に見ていきましょう。
ヒヤリの確認・共有の場を作る
せっかくヒヤリハットの報告があるのですから、確認や共有をせねば意味がありません。
介護現場では、下記の様な機会が該当するでしょう。
ヒヤリハット確認の機会は?
- 会議や委員会
- 日誌や介護記録
- 出勤時の申し送り確認
例えば、フロアやユニット単位での会議。
利用者様について話し合う場で、ヒヤリの確認も同時に行えばケア方法や業務改善に繋がります。
こういった機会があれば、解決が難しい問題も相談しやすくなります。
ヒヤリ発生時に対策が分からなくても「会議で話したい」として、報告を上げやすいですね。
大きな施設などでは、委員会を利用する事も多いですね。
そこで各部署から報告をすれば、職種の枠を越え、職場全体で共有出来ます。
上記の様な定期的な確認があれば、そうした時の注意喚起も行えますね。
職員の目に留まりやすい様、申し送りノートの近く等で管理すると良いでしょう。
危険予知訓練を行う
ヒヤリハットを作成するには、どこに危険があるのか理解する必要があります。
介護現場での危機察知力を養うため、危険予知訓練も取り入れてみると良いでしょう。
危険予知訓練とは、「写真やイラストを見てどこに危険があるか考える」というもの。
職場内研修などで、よく行われていますね。
介護現場で使える「危険予知ブック」を探してみたので、ご紹介します。
ただ介護での危険予知本は少ないようで、中古でも価格がかなり高騰してます。
需要ありそうなのに、意外でした。
高いので、購入の際は注意して下さいね。
業務が忙しい中では難しいでしょうが、時間があればお試しください。
報告・対策の進め方をルール化する
「ヒヤリ報告があり、業務の改善や対策が必要だと判断した」。
…ですが、皆がそれぞれの考えで仕事のルールを変えてしまっては、収拾がつかなくなります。
そんな時にどう動くのか、きちんとルール化してあると望ましいです。
リーダー職等の上司に相談する事が望ましいですが、急を要する事もありますよね。
「急を要する場合は各自で判断し、正式な対応方法はリーダー職が判断する」、というのが落としどころとは思います。
介護士の業務は常に変化してくので、細かなルール作りや職員同士のコミュニケーションも重要です。
事故の危険性と報告件数を注視する
ここまでで、「報告の確認」と「対策の進め方」が大事と話しました。
その際に注目したいのが、事故の「危険性」と「報告件数」ですね。
特に分かりやすいのが、「報告件数」。
同じ利用者様で同じようなヒヤリ報告が多い場合、介護事故の可能性が特に高いです。
報告が増えるほど、統計的に可能性を見て、対策を進める事も可能になります。
また、明らかに事故の可能性が高かかったり、予想される事故が重大なものならば、優先して対策を進める必要がありますね。例えば、誤薬や転倒等の介護事故です。
色々話しましたが、職場により判断基準やルールは異なります。
まずは「報告をする」「報告を確認する」事から始めるのが、事故対策の第一歩になるでしょう。
報告しやすい雰囲気・意識作りも大切
ヒヤリハットを報告しやすい環境、職員を過度に責めない雰囲気作りも重要です。
ヒヤリ報告は、悪い言い方をすれば「利用者様を危険に晒した」「自分がミスしそうになった」事を伝える事でもあります。失敗を過度に責めず、「共有し皆で気を付けよう」という意識を広める事が大切ですね。
介護事故についても同じです。
介護士を続けてれば、介護事故の立ち会ったり発見する事は多々あります。
まとめ
今回は、介護現場における「ヒヤリハットとは何か」をお話ししました。
ヒヤリハットは、介護事故を防ぐ為に必要な危険情報の報告書類ですね。
介護現場には、色々な所に思わぬ事故リスクが隠れています。
利用者様の安全を守るには、そうした危険への気付きが必要となります。
これらが養われれば、ケア方法の提案や介護記録の書き方等、総合的なスキルアップになります。
この機会に「ヒヤリハットの発見」を意識してみてはいかがでしょうか?
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